【読んだ本】JR上野駅公園口 (河出文庫)

本作を読んでいくにつれ私は、自分の気力がページに吸い込まれてしまうかのような、暗くて強い引力に従わざるを得なかった。これはなぜならば筆に力があるからだ。主人公の周りの場景を、全てフラットに説明しようという文体ではなくて、要点に向けた構図でのおそろしくシャープな記述によって、こちらの気持ちを強制同期しにきて、そしてえぐってくる。
一人息子を、今から社会に羽ばたこうとしている時の息子を、失ってしまってから、一層、現実に対する感覚が変わってしまった。この主人公の日常と、完全なる他者の日常と、直接的に関わりがある周囲の者の日常が、ただただ冷静に語られるのだがそれだけで、どうしようもなさ (そう思ってはいけないのかもしれないが……) が募る。本作を読んでどう思ったか。この問いに対する答えを書くのは容易ではないが、書けない今の心情の中身は、理不尽をいなしてきた人間なら覚えがあるものかもしれない。

