【読んだ本】 写真批評


写真批評
土門 拳 (著)
1978年初版発行。昭和の時代の写真雑誌へ、アマチュアから投稿されてくる応募写真に対して、写真家「土門 拳」が行っていた批評をまとめた一冊だ。期間的には1950年から1963年までで、批評されている写真および批評文の数は、100を優に超えていそうな量である。
その批評の一つ一つが、個々の写真家を思っての、境遇に関する想像を働かせて、経験を積み重ねたゆえの洞察を含めた、時に厳しい、親身なアドバイスとなっていることに驚愕した。私の本書の感想としてはこれに尽きる。写真を視てこんなにまで語ることができる、プロとしての専門性、他者の成長を願って促す教育者としての意地をみた。
当時は、写真を撮るという行為自体の重みが、現代の一般的なケースとは異なっていたのだということを、批評の中で痛感する。フィルムの銘柄を選び、レンズを選び、場所と時間を選び、アングルを模索し、絞りとシャッタースピードを決めて、見切った瞬間をフィルムに記録する。その次には、自らの手で現像をしなければならず、現像工程のテクニックやさじ加減までもが写真の表現を左右する。そして心の根底で、写真のテーマをどう据えるのかを考え続けておくことが、秀でた写真には必要だ。本書の内容は写真の批評なのだが、読み手としては、本書での多角的な分析手法というか迫力 (迫る力) が強い故に、写真以外の他の分野に応用できないかなとも自然と考える。
山形県酒田市に『土門拳写真美術館』があると知った。覚えておいていつか行ってみよう。