【読んだ本】 この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた (河出文庫)


この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた (河出文庫)
ルイス・ダートネル (著), 東郷えりか (翻訳)
原題『The Knowledge: How to Rebuild our World from Scratch』。現代の自然環境や人工物はこのままに、何らかの原因で人口が激減して知識も喪失したとして、その後、人類の営みの継続はいったいどうなるであろうか。本書は、その営みが必要とする知識とは何かを導出する究極の思考実験として、「世界を再び作る」という想像を進めているものだ。
その際、必ずしも、人類が過去数万年数千年かけてきた同じ発展経路をなぞる必要はなく、優れた技術に飛躍できればそれを採用すると発展が早まり望ましい、という立場で、様々な分野での丁寧な考察が進む。ここらでは百科事典を読み進めている時のような、博学が得られる気分になる。しかしながら、私が覚えている内容を順不同で書き出すとしても、農作を効率よく進め、石鹸を、コンクリートを、薬を作り、人体の病理を学び、鉄をはじめとする金属を製錬し、酸とアルカリを制し、動力源を活用し、電気を生み出し、天体運動から地球上の位置と時間を把握し、物理量の単位を作り、通信を立ち上げ、……なんて莫大な知識体系の広がりがある。現代の文明は、いったいどれだけの地層の重なりの上になりたっているのか。破壊後に再び作ることなど可能なのか、畏怖の念を抱くのみである。
最後には、文明における科学という考え方の重要性が語られる。調査して実験して、欠陥を理解し、探求して分析して、証拠を重視するものの考え方を育む必要があると結んでいる。邦題には「科学」が含まれ、原題には含まれていないけれども、どちらであろうとも世界を再び作る思考実験の旅路の果てがこう結ばれることに、私は同意するしかない。