【読んだ本】 ストーリーが世界を滅ぼす――物語があなたの脳を操作する


ストーリーが世界を滅ぼす――物語があなたの脳を操作する
ジョナサン・ゴットシャル (著), 月谷 真紀 (翻訳)
原題『THE STORY PARADOX: How Our Love of Storytelling Builds Societies and Tears them Down』。最近の私が関心を強く持っている、かつ、現在進行系の世の中の状況の要因だと考える、人間集団における情動性のような現象について、より踏み込んで言うならば抗えないその力と毒性について、網羅的に知ることができる非常に有効な書籍であった。最初は図書館で借りたけどもけっこうな量があるため貸出期間内に読みきれず、結局は購入することになった。その価値は十分にある。本文中にある一言の言い回しや、内容の深さが絶妙と感じさせるところが数多く、原文も翻訳の技も良いのであろう。それらを、ここの感想記事にたくさん抜粋したくなる気持ちを抑えるのが大変だ。
人間が言葉を操って物語を紡ぐストーリーテリングという技術は、極限的には人間の進化の過程で、集団をまとめ、私達の心を動かすために生み出されて磨かれてきたもの。それを揶揄する「ホモ・フィクトゥス」 (フィクションの人間) という言葉もあるほどだ。しかし人間は、人間の普段の理性や判断力を弱めるストーリーに、心を動かされてしまう自身らの特性自体は容易に変えられないとしても、社会を無用に分断化しないために、ストーリーの毒の部分は取り入れてはいけないのだ。そのために、どう思考すべきだろうかを考え、活路をなんとか見いだそうとする書籍である。