デジタル生存競争: 誰が生き残るのか
ダグラス・ラシュコフ (著), 堺屋七左衛門 (翻訳)
とりあえず1度目の読了。本書を読むと、まず、今をときめくキラキラした人々から発せられる、業界人は間違いなく履修して後を追うべきだとされる、固有名詞化している『マインドセット』の捉え方が大幅に変わる。
本書は非常に面白く、再読の必要がある。もう一度読み終えてから、ここの感想をアップデートします。
森羅万象を説明しようとする物理学が好きで、科学技術を知るのが好きで、技術の凄味に感心することが多く、使いやすい技術が万人に広まることは基本的に皆の生活を快適にするはずだと考えている。しかし現実世界において、エネルギー問題と環境汚染問題はむしろ悪化しているとしか思えず、昨今はそれにインターネットを媒介とした情報汚染の問題まで加わってしまっている。このような時代の陰陽の“陰”が、未来の子ども達の世代にのしかかることを予期しているものの、地球サイズの、世界中の人々を巻き込んでいる複合的な環境問題は、どうやったら解決できるのだろうか。本当に正直に言えば、解決はもう無理かもしれない……と投げやりにもなっており、問題を突き詰めて考えることを避けたい気持ちになっている。
上記のような悲観的な思考に至っている、たとえば、日本の都市部の気温が35度を軽く超えるこの頃の異常な猛暑に参ってしまっている私。だがこれまでの数十年で学んだ問題解決手法の踏襲で、やっぱり技術が打開策を生んでくれるんじゃないか?と、そこに幾ばくかの希望を抱いてしまう癖はなかなかどうしても抜けない。そうすると、莫大な資金がつぎ込まれた宇宙絡みの先駆的なイベントや、斬新なベンチャー企業が打ち出すイノベーショナルっぽいニュースに、凄味を感じて心躍らせるひとときを日々繰り返す。
本書は、こんな私に、次のように訴えてきて、新しい視座を提供する。あなたが心躍らせているその技術の背景には「誰のどのような思想があるのか」、考えてみてください。その技術は既存の問題を誤魔化さないし別の新たな問題を増やさない「真のもの」かどうか、冷静に考えてみてください。……と。洞察力に溢れる本書の風格を私はまだもっと咀嚼したいし、『マインドセット』なるものが流行らなくなるまでは、その思想の色に自分の思考が単色染めされないように、本書を再読すべき理由はあり続けると感じる。