フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち
マイケル ルイス (著), Lewis,Michael (原名), 圭子, 渡会 (翻訳), 一紀, 東江 (翻訳)
株式市場の影で超高速なサヤ取りをして財を成す者たち (フラッシュ・ボーイズ) と、それに気づいてしまった者たちとの攻防の物語。
善悪の判断はいったん置くとして。私としてはまず、本書に描かれている「考えついたものが世の中にまだ無く、それについてどうやら自分が最も詳しい・真剣に考えている・いけてると認識した時に、ならば作ってしまえと誰にも止められない勢いで走り出す」行動パターンに感銘を受けた。このパターンは、レイテンシーが最小の通信回線を街や荒野に敷設してしまうところ、フロントランニングを物理学的に行えなくした取引所の開設に至るところ、この二箇所に特に現れていたと考える。
また、日々の絶え間ない、膨大な量の株取引が生む巨額の流れは、超短期的に見てもまさに金脈なのだなという気付きを改めて得た。旨味があるからハッキング対象として適しており、フロントランニングによる高い精度でちょっとずつ削ぎ取るだけでも高頻度ならやばいぐらい稼げる。きっとそうだろうなあ……とこれは分かる。しかし私が心底驚いたのは、ダークプールという証券会社の中でつけあわせる取引 (取引所外取引) の、取引状況が情報として売られていて、それが結果的にフラッシュ・ボーイズのフロントランニングを助けていたということ。
これ以外にも、手数料と報奨金の価格設定が逆の取引所も存在する謎の理由など、いわば業界の事情が多くあった。読書には時間がかかったが、それを裏切らない読みごたえ。自分達が食われないために知っておきたい、物事の表裏の一例と言える。