EPUB戦記―― 電子書籍の国際標準化バトル
小林 龍生 (著)
何を実現するために、世界のどのような考えの人たちが、EPUB3という国際標準を生み出したのかを、うかがい知ることが出来る。
EPUB3の規格を決める議論は、すでに実装済みの技術のどれを採用するのかしないか、という姿勢で進められるようで、本書には、技術そのものに関する説明はそこまで多くは記述されていない。むしろ、技術の選択に際して、どのような論法で国際的な議論が行われていたかの経緯の記録に近い。
たとえば、日本語には欠かせないルビや縦書き。このような特殊な表現のEPUB3での採用を働きかけるためには、日本語表現に欠かせないものだからという主張は悪手。なぜならばひとつの言語体系のみに意義があるとしても、公正な、国際的な議論の場では通じない。そこでどうしたのか。日本語に関わる著者らの、まさに思考と行動でのバトルが生々しく描かれていた。
このバトルが人々にもたらした価値の大きさは、すでに当たり前に扱うようになったUnicodeと併せて、いま私でも理解できる。電子書籍という、ページを束ねる概念に基づいたデジタルフォーマットにおいても、世界中の言語文化をできるだけ継承し、そして新しい表現の可能性を作っていくためのバトルだったのだなと。
私は約10年前 (2011年12月) に、GenEPUB.comという、プレーンテキストをEPUBの電子書籍にまとめることが出来るウェブサービスを作ったのだった。あの時代 、“自作もできる電子書籍がこれから来る!”という空気感がたしかあったように思う。このサービスで出力するファイルは、EPUB3ではなくEPUB2。EPUBのファイル生成部分はCPAN上のPerlモジュールに頼っていて、当時見つけたモジュール (EBook::EPUB) はEPUB2に対応するものだったからだ。
本書を読み終えたあと、このGenEPUB.comをEPUB3対応版に作り直したい気持ちが一瞬は湧いたけれども、今どきの公開サービスにするために一体どれだけ作り込むことになるのか、見当がつかない。趣味の継続としてはいいネタかもしれない。なお、日本語対応のEPUB変換サービスとしては、老舗で良さげな下記のものが現在の定番のようです。