東京ホロウアウト (創元推理文庫)
福田 和代 (著)
仮に2021年6月・7月の今のうちに本書を読めば、東京オリンピックの開催が近づく現実世界と、小説で描かれた世界がシンクロしてしまうかもしれぬ、という怖い想像ができる。この特権は、知的なものと捉えるなら楽しい。
Wikipediaによると、東京23区の人口密度は2021年6月1日現在、15,374人/km2。調べてびっくりだが、私の居住地域の3~4倍だ。このような、人口が集中している大都市で特に起こりうる物流の逼迫という問題を、あるテロ事件をきっかけに具体化する流れで、本書は構築されている。この題材だけでも、様々な物 (生産物・排出物) を地産地消していない現代の都市化が普遍的に行き着く先を暗示しているといえるが、加えて本書では容赦なく、新型ウイルス感染拡大の状況とオリンピック開催都市の事情も、端々に描いていて痛烈だ。こんなに悪いことが重なるなんて出来すぎてる話なのだが、皮肉にも今はそれが現実……。
巻末のあとがきおよび列挙された参考文献等からは、物流に関わる業に、著者が焦点をあてた理由を生々しく感じ取ることができた。社会を機能させている豊潤な物流は様々な人のぎりぎりの働きで支えられているのだという実情を、本書は背景に持っていて関連の描写も細かいためだろうか、私にとっては読後感がドキュメンタリーのそれに少し似ているところがある。
ご感想ありがとうございます。
— 福田和代@『繭の季節が始まる』『梟の胎動』『梟の一族』『ディープフェイク』 (@kazuyo_fuku) June 27, 2021
まさに、「まだ起きてないだけのノンフィクション」を書いたつもりでした!
なるほどです! ありがとうございます。
— Masahiko OHKUBO (@mah_jp) June 27, 2021
作者さんご本人に感想の感想をいただけるとは、とても恐縮です。(^o^;