【読んだ本】 ぼくは「つばめ」のデザイナー
ぼくは「つばめ」のデザイナー―九州新幹線800系誕生物語
水戸岡 鋭治 (著)
あるテーマに沿って選別された数冊の本が袋の中に入っており、それを中身がわからないまま借りる「おたのしみ袋」の試みが近所の図書館でなされていて、この本は「鉄道にもっと詳しくなれる本」の袋に入っていたものだ。漢字にはふりがなが振ってある。図書館によるさすがのセレクションで、7歳の子ども用にと思っていたが、面白くて私がしっかり読む羽目になった。
著者は、おそらく九州地方では知らぬ人はいないと私が勝手に思う、JR九州の多数の個性的な列車を手がけているデザイナーの水戸岡鋭治氏である。
九州新幹線「つばめ」をデザインする過程での様々な関わり、自身の生い立ち、デザインの哲学といったものが、平易な言葉遣いで語られている。平易さによって、飾り気が意味を淀ませることなく、著者の心情が読者へ隔たりなく伝わる。幼少の頃にどんなことがきっかけで何を印象深く感じて、現在まで考え続けているかと著者が述べている部分は、本書のメインターゲットであろう子ども達に、そっと“種”を残してくれそうである。その種は、「自分の中の着想は大切に思い続けて育てていくことができるよ」というメッセージのようなものだ。
また私は、著者が述べている、駅環境のみならず鉄道車両の内外を地方の“公共デザイン”の枠で捉える視点と、デザイン時に支えてもらったという関連メーカーの“職人気質”に、最近の社会情勢に感じる自分のもやもやを晴らしてくれる共通要素を、直感した気がしている。私のもやっとしたイメージを言葉にすると、最近の社会情勢は、様々な「全体と個」や「大きい個と小さい個」のパワーバランスが偏ったままの平衡状態に思える。他方、著者が言及した先ほどの2つはどちらも、ある主体が直近の利益を最優先で追求したものではない、広い視野から普遍的な本質を視ているゆえの行為で、これが良い動的平衡 (個を含む全体の幸せ?) に必要な要素なんじゃないか……、という直感です。
くうう、自分に残された意外な“種”を具体的にうまく書き表せないまま、今回の筆を置きます。