【読んだ本】 はやぶさ2 最強ミッションの真実

【読んだ本】 はやぶさ2 最強ミッションの真実
はやぶさ2 最強ミッションの真実 (NHK出版新書 639)

はやぶさ2 最強ミッションの真実 (NHK出版新書 639)

津田 雄一 (著)

工学と理学の醍醐味と、そしてプロジェクトマネジメントの緊迫感を味わえる濃い新書だ。

工学としては、地球からN億キロメートル先では機械が自律飛行するしかないが、GPSなどもちろん整備されていない宇宙空間で、Mメートルの精度を出して機械にサンプルを回収させて地球に送る、という挑戦が想像できないくらい偉大だ。理学としては、誰も手にしたことがない、C型小惑星 (リュウグウ) のサンプルの魅力や価値が計り知れないのは、私でも容易に想像できる。これから分析がなされ、どのような新しい仮説や謎に繋がっていくのだろう。

本書ならではかもしれないと、私が感じたポイントのひとつは、「はやぶさ2」のプロジェクトチームの多彩な構成や、運営の生々しい状況が知れるところ。これはプロジェクトマネージャー本人が記した書であり、真実と銘打ったタイトルはまさに言葉のままで、伊達ではなかろう。人間には、個性や感情の起伏や疲労やミスが標準装備されていて、そのような特性を内包しながら巧みに運用されるプロジェクトチームは、強くなり、幸運を掴めるチャンスが降りてくる。

もうひとつのポイントは、「はやぶさ2」プロジェクトにおいて一定の成功が得られたあとには冒険を避ける、いわゆる安全側に傾く、組織 (JAXA) の経営的な判断を、チームでの科学に基づいた確度の高い判断を交えて議論を重ねて変えていった、と語られているところ。想像するにこれは、理念 (この場合は「科学の追求」) が組織全体で共有されている、チームの出す判断が信頼され対等に扱われている、という内部条件が整っていれば理屈上は到達できる姿に思う。しかし言わずもがなで、この内部条件を整えられる組織体のほうが稀な世であるから、本書での実践には奮起させられるのだ。