【読んだ本】 気象予報と防災―予報官の道

【読んだ本】 気象予報と防災―予報官の道
気象予報と防災―予報官の道 (中公新書 2520)

気象予報と防災―予報官の道 (中公新書 2520)

永澤 義嗣 (著)

太陽の放射エネルギーの地球での吸収量と、地球からの放射量とを比較すると、地球の低緯度では前者が大きく、高緯度では後者が大きい。したがって、地球の気象と海流は、低緯度と高緯度での熱エネルギーが交換されるように発生している。理科で昔習ったこの自然環境の原理原則を、思い出させてくれるかたちで本書は始まる。

さらに、気圧配置を記した天気図からは、水平方向の気圧配置のみならず、高さ方向の大気状態も読み取れるということも再認識させられる。つまり、テレビなどで図解される天気図は、図上の気圧配置を立体として再構成できる情報を持つわけだが、普段の私はそれを意識しておらず、天気図を二次元でしか解釈していなかった。

というわけで本書に私は、気象予報・天気予報を「自分はほとんど分かっていない」とまず啓発させられた。

また、気象予報官の役務の内容やそれに向かう姿勢が、本書の半分以上を割いて詳しく紹介されている。各気象台にて毎日数回予報を出すまでの段取り、予報の発表内容をどのような原則で定めているか、災害時には実際どのような対応を行っているのか。少し驚いたのは、気象庁において予報に関する判断基準が厳格に定められているのはもちろん、その客観的な基準に関する見直しが、予報技術の進化や警報が社会に及ぼす影響を加味して適宜行われており、見直しの頻度は低くなさそうという点だ。

このような客観的な基準の運用方法は、科学に基づけば至極当然のことだろうが、今は特別、背筋が伸びる思いだ。なぜなら、世界と日本が苦しんでいるこのコロナ禍の最中、「新型コロナウイルスに関する国家的な対応の武器は科学であり、その陣頭指揮は、気象災害に対する体制と同様に、科学的な判断をベースにして動く組織が執るべき」と私は考えているから。

横道に逸れたが、それは、防災の観点で社会と真摯に向き合うことを突き詰めている著者の言葉の数々が、時代や分野を問わず、普遍的な示唆に富むと感じられるゆえだ。

備考

本書の第八章「防災に軸足を移す」で取り上げられていた、「避難勧告と避難指示の違い」に関して。災害対策基本法がこの度改正され、2021-05-20より、前者の避難勧告は廃止になるとのこと。