【読んだ本】 未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために

【読んだ本】 未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために

著者: ドミニク・チェン

出版社: 新潮社

言葉を他者に返したり呼びかけたり、文字に記したりまた読解するといった、言葉を使う日常を、私たちは代々営み続けている。本書は、その営みが本来的に帯びている「なにか」をとても巧みに、言葉へ翻訳してくれている書であり、「なにか」は私の受信アンテナを介して、私にも想起された。

言葉はなんのために生まれているのだろう。言葉や様々な表現を通して生まれる、人々の関係性とはいったい何だろう、と考える探究の旅へ、読者は導かれていく。著者の思考の道筋として感心するのは、この旅は必ず日常の中から着想され、そこに起点を持つものであるが、ホモサピエンスの歴史を鳥瞰していくような長い視点を伴うものとなること。思考の連続性に知的好奇心がひどくくすぐられる。

また、著者の語りにあり、私も親として数年前から実感して納得していることとして。産まれてきた子どもは、こちらが緻密に教えたわけでもないのに、周りの環境からひとりでに言語を獲得し、知識体系を編み出し、気づきを伝えたり、自分を表現していく能力を持っている。あの驚異的な成長過程に接すると、人間は、そう出来るように出来ているとしか思えない。

しかし他方で、世の中には、投げつけたり、惹きつけることが主目的と思える言葉も飛び交っている。私たちがそれを見聞きする状況に辛さを覚えるとき、一度立ち止まって本書の内容を思い出したり、副題「わかりあえなさをつなぐために」の意味を考えてみると、言葉を持つ者としての原点に立ち返る、心の再起動ができるかもしれない。

P.S. 著者、ドミニク・チェン氏の作品『Last Words / TypeTrace』の、大変印象深い動画があるので貼り付けておきます。