【読んだ本】 貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える

【読んだ本】 貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える
貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える

貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える

アビジット・V・バナジー (著), エスター・デュフロ (著), 山形浩生 (翻訳)

人間の経済的行動の根拠や貧困の要因について、現在の社会では、たとえば二項対立のような単純な構図を用いて、これらが安易に説明されがちという問題がみられる。本書は、それらを理解するための調査手法として、「ランダム化比較試験」が有効であることを示した。たいへんな準備や時間を要すると思われるが、比較実験の場を作り、実際にデータを取って検証することで、現象の要因を推定し、科学で言う“もっとも確からしい”結論を得ている。

また、貧困のある国の政治の大枠が仮にダメでも、制度設計でのうまい工夫があれば、問題の状況は末端から改善できてそれが政治を変えうる、という事例も登場する。

本書を、私は2020年の年始から2回読んだのだが、その途中から、世界の情勢は新型コロナウイルス (COVID-19) の感染拡大によって、急に大きく変わってきた。今感じているのは、人類が未知の感染病に立ち向かう取り組みは、人々が貧困から脱出しようとする取り組みに、似ているということ。リソース不足で時間のバッファもない状態のまま、襲ってくる大波に立ち向かうしかない点が同じに思える。

これから、感染病拡大抑制や経済活動維持の観点における、社会的な行動の変容を促す施策が、世界中の国や地域で放たれていく。この現実は、ある種の比較試験の様相になるかもしれない。そして、それらの施策の効果を維持し、高めるためには、行動経済学がもたらす知見を取り入れるべきだろうと気付かされる意味でも、本書は示唆的だと思う。