ハロー・ワールド (講談社文庫)
藤井太洋 (著)
読む前の、軽く流して読めるものという予想と異なっていたのは、読者の側の、ITを理解するスキル、そして、ITを現実世界に適用する際のモラルをどう考えるかといった想像力を、試されているかのようなストーリーであること。こういう予想外は、挑戦的で楽しい。そこで、どうせなら主人公の心情にしっかり浸りながら楽しむべく、本書を二度読んだ。
本書は5つの物語から成る。主人公にはソフトウェア開発の腕があって、当初は「何でも屋」を自称しているエンジニアだったが、次第に自覚的に、社会的な問題解決のためにその能力を発揮していきながら物語は進行する。各物語に、私なりのキーワードを添えると次のようになる。
どの物語も、技術的にはほぼ現実味があるんじゃないかな……と思わせる。そしてなぜかSF的な近未来というより、まさに「今」の、臨場感に満ちている。