すばらしい新世界 (中公文庫)
池澤夏樹 (著)
過去の読書記録によると、私がこの物語を最初に読んだのは2001年6月。当時は大学院生で、研究と称してインターネットにどっぷり浸かって泳いでいた頃である。会社勤務をして家族がいる今の状況とは境遇が異なり、体は比較的身軽だったであろう。この物語の感想としては、チベットの電力のない土地に小型風力発電を開発しようとする技術者が出向くという設定に、私は元々再生可能エネルギーが好きだしその普及を願っていることもあり、自身の将来のひとつを重ねるような形で、あこがれた記憶が特に強く残っている。
本書を今回読み直し、全体としてとても先進的に感じた。また、主人公の技術者、林太郎に感情移入する部分が、過去の私とおそらく異なっていることに気づき自分でも驚いた。たとえば彼の、子どもへの想いや教育観、宗教における大局観、異文化の認識と肯定、仕事というか人生で為していくことの意味付け。いずれも、過去から未来への時間軸を伴っている、世代を思う概念だ。
林太郎は旅によりこれらを培った。私は約18年の時間や経験によって、本書から得るものが変わった。そして引き続き変わりなく、インターネットにこのような駄文を書き残しながら、持続可能な新世界を望み、ずっと求めていく懲りない性分を再び自覚している。