キッド (幻冬舎文庫)
相場英雄 (著)
緊張の糸が解けない日中関係、戦闘行為と憲法での定義の狭間にあって存在揺らぐ自衛隊。といった今時な日本の情勢を題材として、うまく練り込んであるアクション小説であったと思う。無数の監視カメラと連携する「顔認識システム」と、ビックデータ解析が、日本の警察組織により秘密裏に運用されている形で登場し、ITの眼に包囲される社会が現実的に描画されている。一気に読んで楽しめた。
そして昨今、このような社会にはもう突入済みであると捉えてよいかと思う。Google PhotosやFacebookに触れる日常でわかるように、写真から個人識別を行うシステムの能力は進化を止めない。実世界での個人追跡システムは、その能力に加え、顔や通行・商取引データの“照合・名寄せ”が多地点間で行われた場合に完成する。
いまは明るい未来の為に、個人追跡システムの適切な運用ポリシーについて議論がされる時代であるが、本作品の設定のように秘密裏の存在はいわば世の常。個人的には、自己の一部として、何物とも連携しない陰のわたしを保ち続けたいので、システムを回避するなんらかの防衛術を得ておく必要も感じる。