豊田章男が愛したテストドライバー (小学館文庫)
稲泉連 (著)
日本の自動車は、第二次世界大戦後に輸出が本格化。海外での想定以上の道路環境・利用環境から洗礼を受け、工業製品&サービスとして成長が進んだ。また、レースでの勝利が販売力に影響することもあって、各日本車メーカーは、国内外の自動車レースに参加してそれぞれの威信をかけた戦いに突入、車の調律に長けたレーシングドライバーやエンジニアが育ってきた。
日本の自動車文化が上記のように若々しい頃からの複数の関係者や、そしてトヨタ現社長からの語りを多く集積して、この本は形作られている。タイトルが示す主人公たるテストドライバーは成瀬弘という方で、LEXUS LFAテスト中のドイツ・ニュルブルクリンク近くの一般道での事故で亡くなった。この2010年当時の報道をうっすらと覚えている程度が、私の本書に関する事前知識である。
読んでみて、どうだったか。成瀬弘と豊田章男をはじめ、いい車を作ろうとする人々が切磋琢磨しあう情景からの熱放射により、こちらの心が奮い立たされる話です。ふたりの一種の結晶でもあるLFAについてこれまで深くは知らなかったが、物理性能のみならずその成立過程からしても、トヨタ系列の会社の魂に値する象徴的な存在なのだな……。
本書は、淡泊にいえば巨大企業の再生物語なのかもしれないし、ひとが自動車を嗜好する“文化”を確認し改めて心の原点に文化を宿した、個人個人の物語なのかもしれない。これをどう捉えたとしても、現在進行形の話であることには変わりがない。自動運転やMaaS (Mobility as a Service) といった変化により、自動車の幅が広がってもきているこの時代には、トヨタ現社長がどういう旗を揚げて「もっといいクルマづくり」をもっと進めていくのか、トヨタという企業体がどういう新潮流を社会に示すのか、見ていける楽しみがある。