情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記 (文春文庫)
堀 栄三 (著)
情報職人の個人的体験記録、とあるが実際はとんでもなかった。情報戦という切り口から第二次世界大戦を垣間見ることが出来る、貴重で驚きの多い、実践的な記録であった。諜報活動について述べられており、それはいわば戦略・戦術のhackingのようなものだと思う。
一例を挙げる。無線通信の内容は暗号化により解せないとしても、軍用機の無線のコールサインの統計により、部隊と所属機数を割り出すことができると。8月6日、そうして蓄積されたデータと、無線の発信の様子を分析して、ある“特別任務”を帯びているB-29編隊が日本に向かっていることを嗅ぎ取る。しかし、日本に根付いていた非数値的な戦略に問題があったり、そして総合的な諜報力が及ばずに、“特別任務”が、原子爆弾の投下であるとまでは導き出せない。
教わったのは、戦略には諜報が必要であること、戦略のミスを戦術では取り返せないこと、という普遍の法則。そしてこの認識のもとに失敗例から学び、事実と解釈、情報と諜報を区別しておく必要性は、平時の生活の中でも要るなぁと実感させられた。